「天翔ける 誇り高き翼たち」







「僕はあの翼をもぎとってゆく・・・・恨めしい僕らをきっと許してはくれない・・・・」











潮騒が聴こえる。
僕らを包むわけじゃなく、呑み込む為に小波が押し寄せる。
一歩足を踏み込めば、きっと掬われて流されてく…。
ひとたまりもなく死に喘ぐ…。
なんてちっぽけなんだ。


海原の上を飛行する、美しい鳥たちよ。
君たちは、僕らが焦がれる自由を手にしたのだろうか?
翼を持たない僕らは、本当に欲しているのだろうか・・・翼という虚栄の飾りを……。

どうしてなんだろう…。君の翼が美しくて、憧れで、どうしようもなく愛しいのに…。
僕は君たちを傷付ける事しか出来なくて。
ならどうして、その罪を問われずに今も此処で泣いているのだろう?
飛べない鳥は、鳥ではなくなる。
それは人が翼を手に入れた時、天使と呼ばれるように、違うイキモノになってしまうから…。

君は、きっと近い内に死ぬよ。

僕は、今君の生を見放したのだから・・・・。
恨んで良いんだよ、呪ってもいいんだよ・・・。
そうすれば、こんなにも愚かな僕たちも、もう君を傷付けてしまわないのに・・・・。




釣り糸のエサを呑んだ鳥は、もがいていた。
岩肌に絡まった糸が、尚も翼の自由を奪う。
飲み込んだエサは、美味しかったのかい?
そんなに極上の、ご馳走だったのかい?
君を苦しめるだけの、美味しい罠の味はいかがだったでしょう?

潮騒で流れてゆくのは、カンや瓶、ペットボトルという下らないモノさ。
君は何に見える?
愚かしい僕らが捨ててゆく、色とりどりの美しい入れ物は、どんな宝石に見えるのだろうか…。





甘い罠に捕まってしまった君よ。
僕はどうする事も出来なかった。
いや、きっとどうにかする事は可能だったのかもしれない。
君を、ただ待つだけの死から救い上げる事は、出来たのかもしれない・・・。
手にしたライターで、糸を燃やして翼を自由にしてやる事しか出来なかった。
翼を手に入れた君は、幸せだったかい?
頷いた君の瞳が、嘘だと語っていたよ・・・。


嗚呼……怒っているんだね…。
嗚呼……苦しいんだね…。




君は、きっと近い内に死ぬよ…。




知らないわけないだろう?
そのエサが溶けて、残る釣り針が、君の内側から牙を剥く。
何時だろう?君の身体を僕が壊して、君を殺していってしまうのは・・・。
何時だろう?あの時、ありがとうと飛び立って行った君が、僕を恨めしく想うのは・・・。
偽善と知りながら、君は飛び立ったのだろうか…。
君に飛ぶ自由を返せても、ちっとも満足してない僕は、二度と君に会う事もないだろう。
そして、またこの海では君のように足枷を付けられる鳥が増えるだろう。
僕のせいじゃないと叫びだしたかった。
でも出来なかった・・・。
だって僕は、紛れもなく人間であり、ずっと君を苦しめてゆく者だから。

愚かだと知りながら、僕はきっと一生動き出さない。
またどこかで君と同じ境遇の仲間を、ずっと見過ごして生きて行くんだ。
そして、誰からも烙印を押される事はないんだ。
罪深き愚か者と・・・。
痛みを知らない僕らが、君に許しを乞えるはずもない。
もちろん、翼を乞う事など、愚かしいにもほどがあるだろう・・・。
憤慨出来たなら、真っ先に僕を殺しにおいで。
すべての罪を認め、君の心に平安をあげよう。


君は、きっと近い内に死んでしまうんだね……。


どうすれば良かったのだろう。
選ぶ路があまりにも無くて、手を放してしまえば君を見過ごす事になって、抱き締めていたけれど、
抱き締めているだけでは、現実は何も変わらなかった。
だから、ささやかな優しさにと、絡まる糸を君から取り去ってやった。
けれど、その小さな優しさが、大きな残酷になって君を陥れてゆくだろう。













機械仕掛けの翼ばかりを持つ僕らは、本物の美しい翼の意味を知らない。
彼らにとって翼は、人の手であり足となる。
その必要性を、この愚かな僕らは失念してしまっているのだ・・・。
手を失った鳥を慰めるのなら、どうしてそうならないように出来なかったのかを嘆く方が美しい。
泣くばかりで立ち止まるのなら、大声を上げて叫び出した方が美しい。
出来ない弱さを疎むよりも、したいと思えない心の弱さを疎め。


ほら、とてつもなく恐くなってこないか?


自分という、罪深き者が。
何も知らないと眼を逸らして来た今までに、どれだけの罪悪があるのだろうか。
恐いだろう?
知らない罪を着て、歩いている事の方が。
きっと真っ先に、僕は罪に押し潰されて殺されてく・・・。
背負えないほど、彼らを壊しているから。
いや、殺していると言った方が正しい。


僕は恐いよ・・・。


知らないわけじゃないから、自分の犯した罪の重さを・・・。
この罪を口外しても、“君は悪くないんだよ”と慰められてしまう事の方が、痛くて苦しい。
知らないから言えるのさ。
恐さも、罪も・・・知らない方が良いと思えたなら、僕はきっと何時まででも生きてゆける。
笑って見過ごせたなら、どんなに楽なんだろう。
それでも僕は、出来ない。
貪欲に生きる今に、今以上の罪を背負う事はもう…出来ないから・・・。


ごめんよ・・・。


謝る事でしか、君に手向けられるものがないんだ。
願えるのなら、もう一度君の美しい翼に触れてもいいかい?
温かく鼓動を重ねて生きている君を、もう一度確かめたい。
生きているのだと、その誇り高き翼を以って知らせてほしい・・・。
祈る事しか出来ない愚かな僕に、君の雄姿を見せて欲しい・・・。


君は、きっと近い内に死ぬよ。


―――――――そう、僕が死の為に、君の翼を解放してしまったのだから―――――――









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