「砂上の楼閣」









――僕が望む想いは 間違いだったろうか――


彩雲美しい朝、目覚めの良さは昔と変わりない。
この日差しの為に作られた部屋。
誰よりも、自然を好む君が言い出した事で、大きく変わった設計。
そして手に入れた、美しくも鮮やかな景観。


春の咲き誇る桜。
咲き初めの日々の、あの胸高鳴る鼓動。
恋にも似た胸の高まり。
不思議と誘う、妖艶の美。


夏に見る高らかな空。
その蒼き一枚の絵画に浮ぶ、星というひとつの生の躍動。
上を向くばかりの人間(ヒト)が、追って止まない自然の神秘。


秋が見せる 一年の中でもっとも美しい天体。
彩る紅葉は、愁いを連れては来るが、その想いを煩わしく感じる事はない。
寂然のような、落ち着いた心は清流の如き漂い。


冬独特の雪よりも 冬に降る細雨。
しとしとでもなく、ただ風のゆくままに流れてゆく雨。
美しいばかりの雪に慣れてゆく心に、根ざす闇を浄化しながらも、その事実を突き付ける強さ。
その強さの後迎える朝の、なんと美しく艶やかな事か・・・。








めぐり巡る季節。
君と共に過ごし、この地にしかない自然を慈しみ、迎え、越えてきた。
あの頃、自然の作り出す幻影に近い四季よりも、隣で瞳を輝かせる君の方が、愛しく綺麗だと思っていた。

慈しんでいたのは、きっと外の流れる季節ではなくて、君と過ごす儚い時間だったかもしれない。



――変わらない愛じゃなく  強さに変わる愛を――



一定で留まる愛情など、ありはしない。
僕の愛は昔とは違う。それは君の愛も同じ。
今のままで居られない事を、強く固く感じている二人だったから、負けそうになる心に嘘をつきながら、
「変わりたくない」と、心のどこか深くへ刻み付けていた。


煩わしい想いを持て余しながら、それでも僕がこの家を出ようとしないのは、きっと意味があるのだろう。
同じ繰り返し、同じ場所からの眺めが、こんなにも違うものに見える事が可笑しくて、眼を覆った手。
その下から流れる滴は、一体どんな意味があるというのだろう・・・・・?

心は空白で、無気力でさえあるのに、この部屋の景色がもたらす陽も、雨も、風も・・・・・
どれも、あの頃と変わらず美しい。




昔、君が言ったね。
「美しいものを、美しいと言える事が素晴らしいのよ」
クルクルと変わる表情。
ステップでも踏み出しそうな笑顔。
無条件に愛しいと想った。
その手に欲しいもの、だとも・・・・。
欲望でもなく、情熱でもなく、ただ純粋に。

そんな笑顔の下で、君が嘆いている事を、僕は知らなかった。
最期の君が言ったのは・・・




――――苦海――――



その意味を知っていながらも、彼女が流す涙は綺麗だと、場違いなほどに強く思った。

…………苦海…………
「苦しみの多い社会を海にたとえる言葉」


その苦海の住人だった僕は、君の何だったのだろう?
恋人という枠の中でしか生きられない、ただの男だったのだろうか・・・・。
あの眩しい笑顔は、偽りではないのに。
あの美しい四季の移り変わりに瞳を細めていたのに。


太陽なら夜を越えて、必ず朝に辿り着くから・・・。
月なら切り裂いた闇を突き抜け、その裏の裏側まで・・・。
星ならいくつもの軌道を回り、その運命を廻り続けてくから・・・。
愛しているから。
いつまでも  いつまでも。
それだけが 僕の真実。
それだけが 僕の永遠。


君が僕のひとつであり、僕が君のひとつであると感じていたのは、僕の思い上がりだったろうか。
君の虚無を消し去りたいと願っていた僕に、君が突き付けた残酷なまでも、真実を映した答えは、


――砂上の楼閣――
「実現不可能なコト」


鮮やかな紅のスクリーン。
身を賭して逝くのには、絶景。
舞い散るもみじの葉のように、この身さえも鮮やかに彩りを添えるだろうか・・・・・・・。

―惜別の情―


砂上の楼閣。
別の名を、「空中楼閣」
この窓から身を賭す僕の姿。


際立つ真珠のような涙の粒に、いったい君は、僕の何を視ただろうか・・・・・・










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送