「二人の距離」



10枚以上の手紙の中で、私は貴方の愛を今でも感じる。
どうしても捨てられない・・・・・・。
貴方の全てである紙切れを、私は貴方の命日となるその日に、天に捧げてしまおう・・・・。



どうして、大声で泣かなかったの?
強過ぎる貴方なんてキライよ・・・・だって、私が惨めじゃないの・・・。
貴方を救う事も出来なかった……なんて。
誰も責めるわけない。
だったら、自分で責めるしかなかった・・・。
この忌々しい存在を、何故愛していけるというのだろう。
なのに、他人(ひと)はなんて優しいのだろう・・・・。

苦しいよ、悲しいよ………
もう居ないはずの貴方が、文面の中で、今も私を愛しているから。
その愛に、もう返す術がないというのに・・・・・。












 


「君へ。」

昨日泣いていたのは、やっぱり僕の事?ごめんね……。
いつも、いつも君を泣かせてしまって。
けれど、君はその涙を拭わせてはくれないのだろう?その理由に、僕は驚いたよ。
“僕を理由に泣いたわけじゃない涙を、拭わせるわけにはいかない”そんな強がり。
真っ直ぐな意志が、君の芯の強さだから、ずっとその涙を拭えないのだね・・・。
少し悲しいよ・・・。

そうだ。ねぇ、今度は何処へ行きたい?君が行きたいなら、世界中何処だって構わない♪
少し、ワガママを言ってみなよ?
いつも我慢し過ぎるから、この時ぐらい我を通してみてよ。
それぐらいの方が、僕は嬉しいんだから。
君が大好きなドイツにでも行こうか!雪が降る頃、大きなマーケットが出るんだろ?
君が楽しそうに語っていたから、一緒に見に行こうよ。


本当は僕、慌ててるんだ。
この身体がいつか、いつか、動かなくなる事に。

焦ってるんだ。
ただでさえ、君の幸せを奪っているこの僕が、ささやかな幸せさえも、
君に返す事が出来なくなるなんて。

考えただけでも、恐いよ・・・。

だったら、君に別れを告げた方が良いだろうと、分かりながらも言えないんだ・・・。
だって、君が好きだから。愛してるから。離れる事なんて出来ないよ。
ゴメン・・・何度言っても、これは僕のエゴなんだろうな……。

そしてつい、幸せか?と問いたくなってしまう。確かめてしまいたくなる。
だって、君は毎日変わらずに微笑んでくれるから、その悲しみを見逃してしまいそうで恐いんだ。
だから、泣きたい時も、怒りたい時も、僕の前で言ってほしい。
お願いだから、独り孤独に泣くのは止めてほしい。その怒りを鎮めてしまわないで。

昨日も、そして一昨日も、その前の日も・・・・。君は泣いていただろう?
僕が寝静まった頃、君は泣くんだ。
背中越しに聞こえる、すすり泣きと、身体の震えが、いつも僕を起してくれる。
“早く抱き締めてやれよ”と・・・。

それでも出来ない僕は、どうしたらいい?教えて?

その涙の元凶である僕が、どうやって君を抱き締める資格があるというのだろう。
一生懸命に、声を殺して泣く君に、なんて言い訳をしながら抱く事が出来るというのだろう。
出来るわけもない。出来るはずもない。
毎夜、悔しさを噛み締めて、それでも君の笑顔の為に、僕は無理矢理に眠るんだ。

そして祈るんだ。

明日、必ずこの瞳が醒めるように…と。そして、君の声が聞こえますように…と。
僕は夜にワガママになるんだ。欲張りになるんだ。

そんな朝、君は昨日の事が嘘のように笑って、僕を受け容れてくれるんだ・・・。
毎朝、僕はテレビを見ながら泣いたよね?
確かにそのニュースは悲しかったけれど、本当は君の事を想って泣いていたんだ・・・。
昨日の涙と、今日という新しい日を迎えられた、全ての喜びと悲しみに。
僕は、幸せ過ぎて泣いているんだ。
だけど、そう言ってしまうと君が悲しむような気がして、ずっと今まで言えずにいたんだ。
この手紙を見ながら、君は泣くのかい?それとも怒るのかい?
ただひたすらに、謝る事しか出来ない僕を、どうか許さないでね・・・。

こんなに好きなのに、どうして運命は僕らの距離を埋めてくれないのだろう。
でも、嘆いてるわけじゃないんだ。
それは、僕が望んだ事でもあるから、仕方がないんだ。これは諦めでも何でもなくて。
自然な事なんだと言えば、君は傷付くだろうけど、僕のこの気持ちは変わらない。
死を選んでいるわけではなくて、僕は僕という一つの生をまっとうする時、自然に逝きたいんだ。

分かってくれないか?

それは君を、これからとことん苦しめていく事になる。君を悲しみだけの世界へと引きずり込む。
だけど、僕は君と幸せを感じたい。君と共に在りたい。
でも、自分の心に妥協しないで。偽らないで。我慢しないで。

駄目だと思う時は、必ずそう言う事。

君を縛り付けていたいわけじゃない。君の幸せを願いながら、僕は不幸にしていく・・・。
そんな事を、愛しい人に望む人なんて居ないさ・・・。
“僕の君”で居る時、君が不幸せなら、いけないんだ。そう、いけないんだ!
好きを理由に、その笑顔を曇らせるわけにはいかないからね…。

この痛いぐらいの手紙に、君はいつでも前向きに返事をしてくれる。
どんなに苦しいんだろう。分からない。
ずっと前の手紙に、雫が落ちて乾いた跡があった。あれは涙の跡じゃないのか・・・?
気付かぬふりをする事が、君への愛だと想った僕はずっと言えずに居た。
ごめんね・・・何をしても君を苦しめてしまう・・・ごめんね、本当に。
愛を裏切りで返す事しか出来ない僕を、それでも愛して下さい・・・・。

愛して下さい・・・・。


もう止めようと思いながらも、今日も君に伝えたくて、ペンを走らせてしまう。
「ありがとう」と、綺麗に笑ってくれるから。喜んでくれるから。
また愛を囁いてくれるから。
どうしようもない僕を、抱き締め返して下さい。
君の香りに包まれた夜にだけ、僕は幸せな夢を見れるんだ。
ありがとう・・・。
どんなに時間が経っても、どんな状況に陥ろうとも、僕は君が好きだから。
君を抱き締めている時だけは、君を不安にはさせないと言ったら、キザだね。
でも、そう思ってる。

じゃぁ、また次のお返事、楽しみに待っています。
無理しないように、気を付けて。

                                 AM12:32」











嗚咽を堪えて読む手紙を、こうして大切に持つ事に、どんな意味があるのだろう。
久しぶりに開いた手紙から、君のコロンの香りがした。
あまり香りを纏わない君が、唯一身につけてくれたコロンは、私が好きな沈丁花の香りだったね。
微かに香る春の気配が、君の輪郭を鮮やかにしてゆくよ。
後どれぐらいすれば、この香りも消えてしまう?


もうすぐ、こちらでは雪が降るよ。
悲しい、悲しい雪が・・・・。

君が逝った日も、雪だったよ・・・・・・・・・・・・。










〜雑記なるものを君に〜

もうすぐ本格的な冬が来て、温暖なこの地方にも雪が降るよ。
一年前のあの日。
珍しく吹雪くほどの雪が降ったんだ。
まるで君を攫ってゆく雪のようで、恨めしかった。
どんよりとした空は、私そのもので、心が死んでいったよ・・・

君からもらった手紙、捨ててしまったよ、ほとんど。
見る事も、存在を置く事も苦しかったから、逃げてしまった。
もう、灰でさえも残っていないよ、きっと・・・・。

ごめんね・・・。
肝心なところで、君を拒絶してしまったコト・・・・
許してとは、云わないよ。 



   







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