「破壊の愛〜自然円舞曲“恩愛”〜」
激しく窓を叩く風に誘われて、テラスに向かう。
漆黒の闇の中に、一点だけ灯る家の明かりは、希望の光だろうか・・・。
闇の中で、静かに耐える木々のそびえ立つ凛々しさは、風に揺れながらも失われない。
横風に攫われていく葉の儚さよ・・・・。
名残を残す事無く、散りゆくその美しい輪廻の中に、どれほどの想いがこもっている…?
鮮やかに去る、その雄姿を見せつけながら、僕を誘う…。
薄着で裸足のままに、テラスを開け放ちたくなった。
新しく苛む場所を見つけた風は、容赦なく僕を襲う。
庭に降り立った瞬間に、僕は世界と自然の内に吸い込まれた。
冷たく髪を巻き上げた後は、閃光に似たガラスの雨を降らせながら舞い踊る。
声高らかに、愉しそうに風の悪戯は続く。
霧のかかったように、雨が辺りを白く包む。
薄明かりが映し出す雨の輪郭が、悲しい涙色・・・・。
濡れて、じっとりと重みを増した髪。
毛先からポタポタと雨の雫が落ちる。
星も月もない空を見上げれば、漆黒ではない空が広がる。
濃紺の微妙なバランスをとる空の顔が、僕を見下ろしながらも悠々と威厳を呈す。
自然の円舞曲が、始まるかのような軽やかな風の宴。
気紛れに緩やかになり、また思い出したように疾風を起こす。
まるでステップを踏むような・・・。
風と雨の円舞曲(ワルツ)に煽られて、濡れた髪は乱雑に掻き乱される。
猛威を奮う雨に、冷たくなった身体は、震え始めた。
それでも僕は、テラスから去る事も、この状況を変えようとは思わなかった。
壮大な映画、または動く絵画を見つめているような気さえしていた。
自然が織り成す、素晴らしい景観。
今日、この日一度しか、目に出来ない「今日の円舞曲」
僕にだけ許された、この窓からのたった一枚の風景画と、歌劇。
頬に伝わる雨の冷たさと、それに相まって、風が辛辣に体温を奪おうとする。
それなのに、心地好く感じる。
自然という画の中に、自分というものが混ざり込んでしまったような錯覚さえ抱く。
裸足で地を踏み締め、肌で雨を感じ、耳で風の音を聴きながら、
その不調和のような、調和音を心で愛でる。
ついこの間まで知らなかった雨の音、風の音が聞き分けられるようになる。
瞳を閉じて感じる。
優しく手に触れる、自然の温もりと脅威。
手を伸ばせど、掴む事など不可能な遠さ。
神々しさを、身を以って知らしめられたようだ。
煩わしい人工の騒音など、取るに足らない。
ここにあるのは、唯一無二の協奏曲。
身体を滑り落ちる雫が、僕の穢れを洗い流していく・・・・。
この身体から流れ落ちた雫が、地に吸い込まれて生を紡ぐ。
変わらない輪廻の中で、新しい生を紡ぎ躍動を始める。
今日壊れていく…穢れた心の城を、豪雨でなぎ倒した後には何が残る・・・・?
落城の祝杯にと、雷(いかづち)が轟く。
一度きりの落雷と閃光は、何を伝えようとする・・・?
ズキッと、核を刺すような切なさは、どこから生まれてく・・・・。
優しくなった雨に、触れるような風。
それは一種の慰めのようで、僕は知らずの内に涙を零していた。
知られたくない涙が、優しい雨に溶けて、僕を癒してくれる。
緩やかな風が、労わるように頬を撫でる。
心に共鳴する雷が、音なく光を示してくれる。
影を含んだ砂城が、音を立てて崩れ落ちてゆく。
その光景を快く見送り、僕は清々しい想いで新しい日の為に、ここで立っている。
霧雨に変わった円舞。
エピローグが近いようだ。
“迷いを抱き込んだ妖精は、偉大なる自然の洗礼を受け、迷いの影ごと洗い流されてゆく。
自然という、一枚の絵画の一員となり、根ざす闇を払底する。
見上げた空には光があり、瞳を閉じれば風が誘い、雨が教えてくれる。
一点の曇りは、鋭い閃光で雷が戒めてくれる…。
明日昇る新しき日の星と、月に抱かれ、穢れなき城を創造する・・・・。
城に鎮座する、愛しき人の愛に救われて、今を生きる。
すべての洗礼が終わり、静寂が訪れた夜の中に、雲の切れ間から月が覗く。
優しいおぼろげな光が、洗礼の痛手を癒す。
空を見上げ涙する男の頬を触れるのは、聖女に等しい愛しき人の温かい手と抱擁。
愛に包まれて流れ落ちた雫は、また美しい輪廻の糧となり我を救う・・・・・。”
美しくも残酷な、自然の円舞曲が幕を下ろそうとしている。
霧雨という余韻を残して、確実に明日へと誘う(いざなう)。
跪いた大地の上で、祈りを捧げる男の瞳は、力強く空を射抜いている。
―――――大地には、静寂が訪れていた―――――
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