Special Present For 水菜ちゃん




ほら あの夕焼けだよ
君が忘れてたあの夏に
二人で見たでしょう?

君が急に泣き出して
「何故だか分からないけど、涙が出るんだ」と…

キレイだったよね

染まった海が この世のものとは思えないほど
輝く夕陽が ゆっくり沈んでゆくのも

苦しんできた君の心は
あの雄大な景色の中に溶けていった?





 








「オレンジ〜夕焼けの小旅行〜」



夏の夕暮れに感じた寂しさを、すり抜けてゆく風が癒していく。
オレンジ色の空を見上げて、あの時泣いた君の顔を忘れない。
涙が光って、キラキラして…それでいて、君はとても遠くて悲しかった。

あのオレンジの海で、オレンジ色の涙を流した君の笑顔を、今はもう見ることは叶わない。
それでも、思い出の中で笑う君は、どこまでも美しいね……。




視界一面のオレンジが、シルエットの君を映し出していた影。
どこまでも付いてゆける影が、あの時は羨ましいほどで、僕は影にさえも嫉妬していたのかもしれない。
それほど君が愛しかった。

この海で君に言った言葉を覚えているか?
『一つだけでいいよ。忘れっぽい君に。一つだけ、憶えておいて欲しいことがある。
愛してる。この短い詩を、決して忘れないで…。』

言葉なく頷いた横顔が、夕陽のオレンジに邪魔されて、きっと照れていたのに分からなかった。
急に大人しく、無口になったのは、きっと恥ずかしかったせいだと僕は知っていた。

無言のまま、手を繋いで歩いた堤防道。
遠くに見える船を目で追って、「ねぇ、あなた。船に乗せてよ、免許取って。」
なんて、無茶苦茶なことを言って、「冗談よ!信じた?」とケラケラ笑って走り出した。
僕は唖然として、目を見開いたまま、駆けてゆく彼女を追うことも忘れ、呆然と立ち尽くしていた。
時々、人を驚かせるようなことを言う人だった。
「信じたよー。」と情けない声で走り出しても、なかなか追いつけずに、懸命に走っていた。
彼女を捕まえた時には、近頃の体力不足と、それ以上に清々しい気分を味わっていた。
乱れた呼吸を整えながら、僕は無性に生きている実感を噛み締めていた。
「どう?久しぶりに走ったでしょ?」
そんなお茶目なことを言いながら、一番輝いていたのは彼女だった。

「綺麗だね。」
「そうね、いい色の空をしてる。」
真っ直ぐに見上げた空を見つめて、眩しそうにしていた。

(違うよ。)

今の君が綺麗だと思ったんだ。無茶なことを言ったり、急に走り出したり、そんな無邪気だけど、
どこか影を背負う君が、このオレンジの世界の中で綺麗だと言ったんだ。
だけど僕は、この空のことにしておくことにした。
彼女のことだ。
これ以上照れると、今度は飛行機の免許でも取ってくれ、と言い出しそうだ。
そんなつまらなくとも、面白い想像に微笑した。






―――――あの時は、その世界が全てだった。―――――






あんなに元気良く走り抜けた彼女を、咲けない花にしてしまった現実が痛かった。
僕の手の温もりに気付かぬように、側から居なくなった・・・。
そっと瞳を閉じれば、戸惑うような君が佇んでいる。
何か言いたげで、それでも言葉にならないように・・・。

青いまま育たない実があったとして、もぐ力も、食む力も持たなくなった彼女に、
折れそうな彼女に…何が出来たというのだろう。

儚さのために実を結ばない花が咲いたとして、清い心を尊ぶことでさえも忘れていった僕に、
こんなに弱い僕に…何が出来たというのだろう。

あの時と同じ空はもうない。
あの日に似たオレンジの空を見上げて、僕は君を想う。
駆け抜けた時間が、あの日あの一瞬が、僕達の自由で勇ましいトキだったのだと。
二人想いを馳せた未来が、今日なのだと想うと、嬉しくもただ独りの未来を恨めしく想った。
それでも、君の苦しみさえも溶かしていったこの空が、また僕を癒し、生かしてくれる。

君は少し残酷なことを言っていた。

『あなたとの時間を巻き戻したら
 赤い糸の束ができた

 それをひっぱって再生してく
でも同じ道は2度とない

同じ恋なんて
キセキがおこらない限りないから・・・』

同じ風も、同じ時間も、同じ空もない。
そんな少し認めたくない現実でさえも受け止めてゆく君が、誇らしくあった。
だけど、きっと一番寂しかったのは君なのだろう。
そう想うと、精一杯の強がりだったこの言葉が、何度も何度も胸を締め付ける…。
同じキセキを望んでいるのは、僕だけじゃないと思いたかった。
君との時間を巻き戻したら、やっぱり君だけの思い出の方が幸せだから…。


『太陽が明るく照らし
 僕はまた微笑えそうだ
君を失っても まだ受け入れられずに
何度忘れようと思ったかしれない
そう考えている間
僕はワラうことを忘れてた
淋しくて…悲しくて…
君がいなくなってしまった
現実(いま)の受けとめ方を知らなくて―――

でもそんな僕も微笑えそうだ
時間はかかってしまったけど
それでも君への想いからすれば
足りないくらいだ

何かが僕の中で区切りをつけた
今は素直に受けとめられるよ

ただ
君にとって特別な思い出に
なれることだけを
祈るばかり…』


オレンジ色の空が、少し紫に変わり始めた。
僕は急に悲しくなって、泣き出しそうになるのを堪えた。
だけどその努力も空しく、ポロポロと零れ出した涙は、あの時の彼女のように
キラキラと輝いているようだった。
あの時泣いていた君の想いが、ほんの少し分かった気がした。

「僕の心は、この空に溶けていったよ。」

僕は海に手を振って歩き出した。
空もなく、地平線さえも曖昧にしてゆくオレンジの輝きに、僕は明日の光を見た。


僕はまだ、少し泣いていた・・・。




 
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