The cage of the name of freedom.〜自由という名の檻〜




酒も入って、貪欲に睡眠を貪りたいというのに、どんなに目を閉じても眠りに就く事が出来ずに、
妙な苛立ちを感じていた。
回転の鈍くなった頭は、霞みがかかったように重い。
どっかりとベッドに預けた身体は、もう動く事でさえも拒否している。
入眠する事も、動き出す事も出来ない気だるげな夜。
いつもなら酔えるはずの量を飲み干しても、覚醒するばかりで、
安らかな眠りを誘う薬にはならなかった。

カクテルボトルを片手で持ったまま、僅かな光を避けるように腕で瞳を覆う。
微かに香るカクテルがボトルの中で傾く。
魅惑の液体は、今の俺を魅了しようとはしない。

空はもう夜を終え、辺りは白み始めようとしていた。
夕方の空に似ていながら、それは朝だと知らせる何かがある。
紺に近い空が、顔を出して来た太陽によって青色に変わる。
その一瞬、空気がざわめく。
神聖な空気の張りつめた、まだ誰も空気を淀ませない早朝は、きっと美しい。
吸い込む空気が冷たくて軽い。

そんな想像を、とりあえず動く瞳で、窓を見つめながら想った。

ベッドに沈み込んでからそう時間は経っていないが、空の変化は目まぐるしいだろう。
言葉通りに、刻一刻とその色と表情を変えてゆく。
感じる陽光は、目を刺すような光ではなく、慈愛のように優しい光だろう。
知りもしない母性のようだと思って、自嘲混じりに笑った。



ボトルの重さが急に邪魔になった。
俺は一気にボトルの中身をあおり飲み干した。
もう味を楽しむ事はしない。水でも構わないようなものだ。

泣きも笑いも出来ない酒が、一番困る。
持て余す想いに、乗り切れない心が、理性の中で冷静さを失わないからだ…。
まだ酒に呑まれて酔っていた方が、幾分気持ち良いだろうに…。
空になったボトルを、無造作にベッドの下へと落とした。
割れる事もなく、鈍い音を立ててフローリングに転がる。
乱雑に脱ぎ散らかした服や、読みかけの雑誌。
そんなどうでも良い日常も転がっている。
夜に終わりを告げたはずの空は、想像のような早さで白む事はなかった。



ゆっくりと焦る事を知らない雄大な自然は、窓を開ければ見せつけるような雄姿を放っていくのだろう。
どうやら俺の知る朝には、まだ遠いようだ。
そう、人々によって淀んだ朝しか知らない俺は、窓さえ開ければ新しい朝を知る事が出来るというのに、
何故が躊躇しているようにも感じた。
しかしその事実を心の奥底に問いかけるよりも、酒のせいにする事でその想いから逃げ出した。

「厄介な事は考えるだけ無駄だ…」

先ほどよりも重く鈍い思考のままに、もしかすると眠れるのではないかと思い瞳を閉じた。
その頃になると、思考も身体も限界のピークに達していたのだろう、
安らかとは言い難いが、俺にも人並みの睡眠が押し寄せた。
眠りの淵、どうしてか妙に時間が気になったが、確認するだけの気力は残っておらず、
眠りに足を浸した。

精神と肉体に、静かな静寂が訪れた。









カーテンさえも閉じる気力がなかったせいか、目を開けた時に刺すような光が俺を待っていた。
どうやらまた、美しい朝を見る事は出来なかったようだ。
が、あまり残念に思っていない自分が居る事も分かっていた。

残り酒なのか、ただの寝不足なのか分からない憂鬱を抱きながら、ベッドの上に腰をかけた。
手を伸ばしたサイドテーブルには、昨日買った煙草が火に灯る事を待ち望んでいた。
何となく吸う気にはなれなくて、乱雑な髪を掻き揚げた。
膝に肘を突いて、頭を抱え込む。
燦々とした陽の光に、暴かれているような気がした。
暗闇の中で逃げる幼子のように、身を縮めて見つかる事を恐れているように、朝は臆病になる。
大人という枠が、泣き出す事を許してはくれない。
また我慢出来ないほどのものではないから・・・。

大きな溜め息をついた。
そう言えば、昔好きだった曲の歌詞に、こんな言葉があった。
「世界中の溜め息を、言葉に変えてあげたい」
ならば、俺のこの形なき想いは、どんな言葉となってゆくのだろう・・・。
教えてくれよ…。
言葉となれるのならば。

以前、痛みを連れて来る陽を、眩しげに見つめた。
太陽は迷わないのだろうか・・・自分が進むべき道とやらを。
夜に焦がれる事などないのだろう。
流した涙でさえも、乾かしていくその強さを誇らしげに見せつけていく・・・。

立ち上がった自分のシルエットが、今日も変わりなく俺自身を映し出す。
唯一背負えるものは、この自分という重い影のみ。
どこまで共にあれるだろうか。
変わり映えのしない今日にも、お前はまた後をつけて来るのだろう?
この窓を開けたら、安いっぽい朝が始まってる。
あの扉を開けると、無機質の日常が転がってる。
もう、悲しみを感じるほど繊細でもなくなった。
もう、諦めてしまおうか・・・・。
そうか。俺はまだ諦めていなかったんだ・・・。


それでも…。
俺は、あと一時間もすれば、スーツを着こなして、貼り付けた笑顔であの扉を開けるだろう。
心の平和などに耳を傾ける事は、ない。
自由な現在(いま)を煩わしく感じている俺に、何時あの虚しい夜を越える喜びをくれるだろう。

自由に怯える未来予想図を、一体誰が、感じていただろう。
俺は、怯えている…。

檻を探している自分が、本当に檻を見つけてしまう事を・・・。





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